留学が決まった皆さんへ伝えたいこと

こんにちは。奨学金事務局スポンサーの一つである合同会社Good Friends Japan代表の桑原と申します。
みなさん、ファウンデーションコースへの入学、おめでとうございます!
英国、アイルランド、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどのファウンデーションコースに通う予定のみなさんには、僕のアカウントから3,000円が送られているかと思います。
これは「家族に感謝を伝えるために使う3,000円」として送ったものです。
みなさんの推し活代やゲーム代に使っても全然いいのですが、それを目的に送っているわけではありません。
この3,000円を送ることを決めたのは、
「遠くヨーロッパの大学に進学する決断をしたみなさんを支えてくれた家族に、少しだけ何か感謝の気持ちを示して日本を離れてほしい」
と、個人的に思っているからです。
この3,000円で、親をお茶に連れ出してもいいかもしれません。
家にちょっとしたお菓子を買って帰ってもいいかもしれません。
カードにメッセージを書いて親に渡してもいいかもしれません。
大々的なことをする必要はありません。
使い道も額も何でもいいのですが、「その目的は家族に感謝を伝えるためであってほしい」と思っています。
「家族に何らかの形で感謝の気持ちを伝えてほしい」と考えているのは、「そうしてくれると僕が嬉しいから」という極めて自己中心的な理由です。
「みなさんのためを思って」「みなさんの親御さんのことを考えて」などという高尚な理由ではありません。
意味不明なことを承知で言えば、「僕の自己満足のために、この3,000円を使って」ということです。
「いや、そんなん知らんがな」
「そもそも何に使ってもバレなくね?」
「ネトゲに即課金っしょ!ラッキー!」
という人もいるかもしれませんが、それはそれで全く構いません。
使い道を追跡することはないですし、「そのために3,000円を全部使い切ってくれ」と考えているわけでもありません。渡航前に家族に何かしやすくするために考えたことに過ぎず、3,000円という額も、「まあ、こんなもんじゃないっすかね?」と、スタッフに相談もせずに、感覚だけで決めています。
送っている本人がこんなノリなので、「使う方も気軽に使ってくれればいいな」と思います。
みなさんは、これから日本を離れて、遠く離れたヨーロッパで新しい生活を始めます。
高額な学費の海外大学に進学できるのは、本当に恵まれたことです。経済的に自立していない場合、賛同して留学を支えてくれる保護者いなければ、この類の留学を実現することなどできません。
僕自身は、親の支えでアメリカ留学ができたことを自覚せず、20代の途中までを過ごしたタイプです。
僕がアメリカの大学に行くことを親に知らせたのは、実際にアメリカに渡航する数日前です。当時の僕は、父とは一切の連絡を絶っており、諸々の複雑な理由で既に無理やり自立していたこともあって、父には留学のことも何も言いませんでした。
「俺の力でやったんだから親は関係ない。自分の給与と奨学金で留学するんだから言う必要もない」
そう考えていました。
高校生世代であれば、自分の現在がどのように形成されたのか、現実が見えにくいものです。保護者からの助けがないと子どもは生きていけないにも関わらず、身近で親がしてくれる様々な支えなど、空気のように当たり前に享受して日々を過ごしてしまいます。
それを実感するのが、僕は比較的遅い方だったと思います。「父と絶縁状態だった」、「既に自立していた」という理由があったにせよ、アメリカに行けたのが「親のおかげでもある」などと考えたことはありませんでした。
カナダ在住時に運営していた『カナダ大学院留学日記』というブログをきっかけに、さまざまな生い立ちを抱える10代と関わるようになるまでは。
僕の最初の海外就職は、カナダの教会でした。
当時、「奨学金でカナダの大学院に行き、カナダの複数の教会で働き、北米最大の路上生活者コミュニティの唯一のアジア人スタッフで、南米、イタリア、カナダの世代別のサッカー元代表選手が集うホームレスサッカーチームの一員」という、生活しているだけで薄っぺらい「セルフブランディング」になるには十分な環境だったこともあり、ただの交流目的の日記だった『カナダ大学院留学日記』は、意図せずに多くのアクセスを集めるようになりました。
その中で、ブログを通して僕に連絡をするのが急激に増えてきたのは、親と育っていない10代の人たちです。
変わった立場で生活をしている上に、発狂しそうな高校生活の後半を送り、進路にも行き詰まって親と絶縁状態になっていたことが書かれていたことで、里親に預けられていたり、児童養護施設で育ったり、経済的に極度に困窮した家で育ったりした人の興味を惹きやすいブログ内容だったのだと思います。

若くて未熟なうちから100年以上の歴史を持つ組織の責任ある立場に立ったこと、ブログが幅広く読まれて、職場の電話番号も家も特定されていたことで、僕は非常に多くの10代の人生と関わり、「人間とはどのような存在か」を学ぶ幸運に恵まれました。
親の失踪による育児放棄で、施設に預けられている子、
親の暴力で紆余曲折の後に、里親の元で育っている子、
地方の有名人だった親が考えうる最悪の犯罪の一つで逮捕され、マスコミに追い回された子、
急性白血病で余命が限られている子、
限度を超えた扱いに怒りを募らせ、親に包丁を向けて警察に保護された子、
関わった子どもたちの中には、今も元気に生きている子もいれば、若くして亡くなった子もいます。自ら命を絶った子もいれば、「生きたい」と願いながら生きられなかった子もいます。
親に関する記述が本人に了承済みで修正されていますが、リンク先の彼も『カナダ大学院留学日記』から連絡をくれた一人です。

深く関わっていた子どもたちの生い立ちや家庭環境、置かれている状況を目の当たりにしていく中で、「高校の途中まで、俺は何て問題ない環境で育たせてもらったんだ」ということを、傲慢な僕も強く自覚できるようになっていきます。
子どもの頃に親から極端な問題のない落ち着いた環境を与えてもらったおかげで、僕はアメリカで自立できる能力や働ける境遇を手に入れられたのに、それを「自分の力でここまで来た」などと考えるのは、ただの思い上がりです。
10代の子どもは、帰る場所に困らない毎日を過ごせた幸運を、そして、その環境を親が時には必死に苦労して作ってくれていたという現実を、体感として理解しにくいものです。
高校卒業後すぐに学費の高いファウンデーションコースに留学できる家庭環境のみなさんであれば、最も深く、継続的に支えてくれていたのは、身近な親御さんかと思います。
無責任なことを言う大人はSNSにたくさんいるかと思いますが、みなさんの今までの人生を共に歩み、実際に責任を持って支え続けているのは、親御さんです。自分に都合がいい時だけでなく、良い時もそうじゃない時も、皆さんの生活を側で支えているのは、共に人生を過ごしている親御さんです。
ここまでの道を整えてくれた親がいなければ、みなさんは、今こうして留学に向けて渡航の準備をしていることもないでしょう。
今は進学先も決まり、未来の留学生活に想いを馳せている時期かと思います。頭の中は未来の生活でいっぱいかもしれません。
でも、少しだけでいいので、時間をとって、この3,000円を今まで支えてくれた親に感謝の気持ちを伝える道具にしてもらえると、すごく嬉しいです。
僕の母は、長期の抗がん剤治療の末、2023年に亡くなりました。冷たくなった母の顔に触れて声をあげて泣いた記憶は鮮明で、今でも病気で痛み苦しむ母が夢に出てきます。「あれをしておけば、これをしておけば」という無数の後悔、親が失踪して極度に苦労した母の人生を想って、ふとしたきっかけで今も不意に涙が出ることもあります。
親というのは、ときとして、子どもとは全く異なった、子どもには想像さえできない重圧や責任感の中で、たくさんの労苦やストレスを抱えていることがあります。人生の歴史の長さの分だけ、みなさんには寄り添ってあげられない過去を抱えています。
親だって、疲れることも、悲しいことも、辛いことも、重圧で胸が締め付けられることもある、生身の人間です。みなさんと同じように、心の中で泣いたり、笑ったり、感情に大きく左右される存在です。
自分がずっと大切に想っている子どもからの小さな感謝の言動は、みなさんの想像できないくらい大きな力になることがあるかと思います。
大きな額ではないですが、これが家族に「ありがとう」を伝えるきっかけになることを、心から願っています。
「もっと大きなことをしたいから、もう少し大きな額を支援してほしい」という人がいれば、詳細を伝えてもらえれば、内容次第で柔軟に対応します。
そのときは遠慮なくお知らせください。
2024.07.14
桑原泰之